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人事の歴史

  • 歴史

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1960年代…

・人事管理(Personnel Management, PM):労働市場論や労使関係論など応用労働経済学を理論的基礎

←「伝統的管理モデル」…テイラー(F. W. Taylor) の科学的管理法、ファヨール (J. H. Fayol) の管理論 // 現在の成果主義賃金の源流となる「差別出来高賃金制度」など。

・「経済人」仮説=企業家は利潤の最大化、労働者は賃金収入の最大化を目指す、という経済的動機によってのみ行動する人間を想定。作業者は受動的な生産用具。

(内容) 工場の物理的環境条件と作業効率との関係を問題にした。各ライン管理者に権限を集中し、機械的な目標管理や業績評価を行う。

 

←「人間関係モデル」…メイヨー(G. E. Mayo) 、レスリスバーガー (F. J. Roethlisberger) // モラル・サーヴェイ、提案制度、社内報、カウンセリング、などの施策は現代の企業にも広く定着している。

・「社会人」仮説=経済的動機だけでなく、友情、安定感、帰属感の欲求(集団への所属の欲求)を満たそうとする社会的動機を持った社会関係の中に存在する人間を想定。

(内容) 人間関係論は従業員の動機の満足度がモラール(士気、意欲)に影響し、モラールが高ければ生産性が高い、という仮説を採用した。メイヨーとレスリスバーガーを中心としたハーバード大の研究者がウェスタン・エレクトリック社の工場で行ったホーソーン実験(1924-32年)が有名で、無意識的・自然発生的に形成され、暗黙の規範が作用しているインフォーマル組織を発見し、そこでの人間関係が作業効率や生産性を左右することを明らかにした。

1970年代~1980年代…

・人的資源管理(Human Resource Management, HRM):心理学や社会学をベースにした行動科学

←「人的資源モデル」…リッカート(R. Likert)のシステム4理論、アージリス(C. Argyris)の組織とパーソナリティ、ハーズバーグ(F. Herzberg)の動機づけ要因、(D. McGregor)のX/Y理論、マズロー(A. Maslow)の欲求5段階説 // OJTやOff-JTなど従業員の能力開発施策や従業員参加を促進する施策など。

・「自己実現人」仮説=無限の価値と能力、貢献する意欲がある存在としての人間を想定。

(内容) 職場の物理的環境や社会的環境(人間関係)ではなく、仕事や職務そのものを改善する職務再設計(job redesign)を行う。向上心や意欲を持った主体的な存在として人間を扱い、人的資源を企業主導で管理するのではなく、企業は従業員の能力発揮の意欲を引き出し、能力開発を支援する役割を果たし、従業員は自律的な内部統制(intrinsic control)によって企業の業績に貢献する。

←企業が人的資源に注目し始めた理由は、差異性そのものが標準を上回る利潤(レント)の源泉となる「ポスト産業資本主義」への移行である。以前の産業資本主義では18世紀後半から19世紀前半の産業革命に始まる機械制大工業によって、利潤の源泉は工場にある機械であり、ヒトは補助的な役割しか果たさなかった(コスト・センター)。しかし代表的な経営資源であるモノ・カネは次第に標準化し、経済的価値(Value)の低下、陳腐化(Rarityの低下)、模倣が容易になる(Inimitabilityの低下)によって、持続的競争優位(sustained competitive advantage)の主要な源泉ではなくなる。それに対して差異性を産む人的資源(ヒト)やそれを活用する組織(Organization)が重要な資源として注目されるようになった(プロフィット・センター)。

←1980年代

戦略的革新運動(strategic renewal movement)…グローバルな企業競争の激化が背景。個々の人事施策の評価ではなく、それらの相互関連的な組み合わせや、人材マネジメントと経営戦略との関係といった視点を取り入れた、マクロ組織論的アプローチが主流。この運動の実質的な牽引役が経営戦略論であり、特にポジショニングスクールのポーター(M. E. Porter) と経営資源スクールの (J. B. Barney) が代表的。その中でもバーニーが体系化した資源ベース理論(Resource-Based View)は,人的資源とそれを扱う人材マネジメントを企業の持続的競争優位の源泉とみなした。

1980年代初め…

戦略的人的資源管理(Strategic Human Resource Management: SHRM)

・ベストプラクティス・モデル // Beer et al. (1984)『ハーバードで教える人材戦略』 やPfeffer (1994) “Competitive Advantage Through People.”が代表的な文献。

(内容) ベストプラクティス・モデル(best-practices model)と呼ばれ、従業員の能力開発に投資し、経営への信頼を促進し、組織目標への従業員のコミットメントの獲得を重視したことなどが特徴。ハイ・コミットメント人事システム(High Commitment HR System)、ハイ・インボルブメント人事システム(High Involvement HR System)、ハイ・パフォーマンス労働システム(High Performance Work System)、の3つのモデルがある。(コミットメントとは、従業員の会社・職場・仕事に対する親近感・肯定的な感情や態度のこと) 高い能力と勤労意欲を持った有能な人材を育成・確保し、参加施策で企業組織における献身的な努力を引き出し、その努力の方向性と企業目標を擦り合わせることで高業績を達成する。人間関係論の社会人仮説を引き継いだ、仕事で幸せな労働者が高い職務業績をあげるという「幸せな労働者仮説」(happy-worker thesis)を採用している。HRMのソフト・モデルには以下の2つの考え方があり、時系列順にベストプラクティス・アプローチとコンフィギュレーショナル・アプローチである。

(1) ベストプラクティス・アプローチ(best-practices approach)

経営戦略を含むあらゆる状況・組織に普遍的に妥当する最善のHR施策としてのHPWP(High Performance Work Practices)のリスト化を図る。1960 年代後半以降のアメリカにおける対立的な労使関係の改善や、従業員の職務満足やコミットメントの改善・向上をめざすQWL(Quality of Working Life)運動の実験的な成功体験の積み重ねを踏まえた提案を行っている。

(2) コンフィギュレーショナル・アプローチ(configurational approach)

経営戦略とHRMの整合というコンティンジェンシー・アプローチの問題意識を踏まえつつ、HR施策間のシナジーを重視した内部適合(internal fit)をもつ HR 施策の最善の編成としての HPWS (High Performance Work System)を追求する。企業調査にもとづく実証的な方法論を特徴としている.

1980年代半ば前後…

・ベストフィット・モデル // Devanna et al. (1982) “Human Resource Management: a strategic perspective.”が代表的な文献。SHRM研究の文献レビュー:守島 (1996)「戦略的人的資源管理論のフロンティア」『慶応経営論集』13(3), 103-119.

(内容) 戦略と人事制度の整合性(fit)を追究するベストフィット・モデル(best-fit model)や環境に応じて最適解が異なるとするコンティンジェンシー・アプローチ(contingency approach)と呼ばれ、経営戦略と人材マネジメントとの適合を重視し、人材マネジメントを経営戦略遂行の手段と位置付ける。①競争戦略を類型化することで戦略に対応したHRMを採用し高業績をあげようとする、②Chandlerの「組織は戦略に従う」という立場に基づきHRMを経営戦略の下流に置く、などの特徴がある。テイラーの科学的管理法のDNAを受け継ぎ、従業員の主体性を重視せずに、人事制度や管理者による外部統制(external control)を行う。適切な組織構造やHRM制度の設計が必然的によい組織業績をもたらす、というマクロ組織論的アプローチが中心である。「企業が採用する戦略に応じて有効なHRMのあり方は異なるのではないか」という考え方に基づき、経営戦略とHRMシステムの最適な整合を追求する。戦略実行に必要な従業員の役割行動や職務遂行能力を特定し(Shuler and Jacksonのチェックリストなど)、その能力を持つ人材を調達・育成・維持・動機付けるHRMシステムの編成を考える。

 

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 以上のような考え方に基づいたSHRMは現在、「戦略人事」や「経営人事」という言葉とともに注目されている。しかし産業界に強い影響力を発揮したのは、SHRM そのもののモデルではなく、資源ベース理論を踏まえた SHRM 的な個別の提案であった。具体的にはAtkinsonの「柔軟な企業モデル」(the model of flexible firm)やLepak and Snellの「人材ポートフォリオ理論」(employment mix)であった。また「パフォーマンス・マネジメント」という考え方も広がっており、企業の戦略と働き手の貢献を結びつけていくための方法論で、業績評価とは異なり戦略目標を細分化した下位の目標を職責や期待水準としその達成度を評価する。SHRMについては様々な批判も行われており、それを受けた修正として、Guest の「心理的契約」(psychological contract)、Schuler and JacksonのHRMの「利害関係者モデル」(stakeholder model of HRM)などがある。

 

  • まとめ

 人事の歴史は企業が「人間」をどのように扱ってきたかに対応している。現代では働く人も自分自身を主体的な存在と考え、経済的・社会的動機だけでなく、自己実現動機に基づいて裁量の幅が広いことやある程度「自由」に自己決定できることを求めている。一方でテイラーが主張したような成果主義的賃金制度も取り入れられつつあり、業績評価が報酬に直接反映されることも「自由」な仕事の1つの条件なのかもしれない。このように人は個々人で様々に異なるものを働くことに求める、行動の予測が困難な主体的な存在である。その意味でベストプラクティス・アプローチが追究するようなあらゆる人に適合する人事(HRM)制度の設計は難しいだろう。かと言ってすべての人に別々の人事制度を用意することも企業組織が大きくなれば非現実的である。

 これに対して「マス・カスタマイゼーション」という効率性を維持しつつ、個々のニーズに応えるという考え方がある。これは相反するものを同時に追究する考え方であり、実際にそのような方法があるのかについては疑問が残るが、人事に当てはめると一貫した設計思想を持ちつつ、個々の働き手の意見を反映して調整する(calibration)というものであろうか。岩出 (2013)は「特定の HR 施策の成功は,従業員がその施策を「受容」(acceptance)するかどうかにかかっているといえる」と述べる。施策を完璧にデザインできたとしてもそれを受容する従業員の「納得感」が得られなければ、よい制度とは呼べないだろう。

 またハードHRMが重視する経営戦略とHRM制度のフィットだが、これはポーターの完璧に計画されたものとしての意図的戦略やチャンドラーの戦略に従うものとしての組織や人という考え方に基づいている。これに対して近年、漸進主義や組織学習による実行されたものとしての創発的戦略が注目されている。競争環境が急速に変化しているハイパーコンペティション状態の現代において、外部環境に対応し、さらに自らイノベーションを起こして先制破壊を行うためにも企業として柔軟性を確保することが重要な戦略となる。その場合にはHRM制度はどのように設計されるべきなのだろうか。このような疑問に対してはあらゆる企業に当てはまる最適解はないだろうが、成功している事例もあるだろう。その事例を分析することによって企業業績と働く人にとってのよい仕事経験が両立される方法を考えたい。

 

  • 参考文献

岩出博 (2013)「戦略人材マネジメントの非人間的側面」『経済集志』83(2), 63-83.

木村琢磨 (2007)「戦略的人的資源管理論の再検討」『日本労働研究雑誌』49(2・3), 66-78.

江春華 (2003)「人的資源管理の生成と日本的経営」『現代社会文化研究』26, 129-146.

会社組織におけるインセンティブの重要性 ~『ゼミナール経営学入門』より~

  • 従業員のエネルギーと企業のインセンティブ

 この本の第9章では組織マネジメントの全体像が明らかにされた。そこでは個々に様々な目的や思考パターンを持った主体的な存在である従業員が、協力して業務行動や学習を行うことで、企業の業績が現れるということが述べられている。しかし従業員が頭で考えて会社のために行動計画を立てたとしても、実際の行動に至るにはギャップがある。そのギャップを飛び越え、実際の行動に踏み切るには「心理的エネルギー」が必要となる。簡単な言葉で言えば「やる気」である。そこでインセンティブシステムが重要となる。これはこの本で述べられているように「協働にエネルギーを投入しようとする意思を引き出す」役割を演じている「多くの人が欲しがるものを組織の人々に配分する仕組み」である。

 バーナードの『経営者の役割』も引用されているが、彼も、組織の本質的要素は人々が自分のエネルギーをその組織に提供しようとする意欲と説き、「どんな組織でも、十分なインセンティブを与えられるかどうかが、その組織の存続をかけたもっとも強調される仕事となる」と述べている。この意欲は「この組織(会社)のために頑張ろう」という気持ちである。組織が目標とする業績を達成するためのエネルギーが、従業員の努力やエネルギーの総体であるとすれば、組織での協働に個人が自分のエネルギーのどれだけの割合をどれだけ意欲的に提供してくれるか、ということが問題となる。この意味で適切なインセンティブシステムを設計することが、組織マネジメントを任されたマネージャーがもっとも注力すべき問題であるといえる。

 

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  • 人が持つ5段階の欲求

 では具体的にどのように考えていけばよいのだろうか。この本では、(1)人は一般にどんな欲求を持っているか、(2)人は企業組織に何を求めるのか、(3)組織はどんなインセンティブを与えられるか、という順に考えを進めている。

 まず1つ目についてマズローの『人間性の心理学』から「欲求5段階説」を参照している。これはよく知られている説だが、人間の欲求を5つ(ⅰ 生理的欲求、ⅱ 安全の欲求、ⅲ 所属と愛の欲求、ⅳ 承認の欲求、ⅴ 自己実現の欲求)に分け、それら低次の欲求から高次の欲求へシフトしていくことを明らかにした。この説は自分の経験と照らし合わせて直感的に納得のいくものである。4つ目の承認の欲求は内発的なものと外発的なものに分けられ、前者は自尊心(self-esteem)のようなものであり、後者は他者/社会から認知/承認されることを求めることであると私は解釈する。個人的にはこの自尊心と5つ目の自己実現欲求の区別が曖昧であると感じた。なぜならどちらも自分の能力や達成したことを自分が誇らしく思ったり、それに満足を感じたりすることを求めているからだ。他者承認による満足と自分の目標を達成した満足に分けたほうがわかりやすいと思う。すなわち承認と自己実現の差は他者との比較の有無である。

 

  • 人が会社に求めるもの

 この本では「企業とは、収入を得る場であり、仕事をする場であり、人間関係をもつ場なのである」と述べられる。安定した収入、居場所や所属感(同僚との交流)、他者承認(会社での地位)、自己実現(仕事の面白さ)を働くことに求めている。この中で収入以外は仕事以外からも得ることができる。しかし収入を得るということは仕事に特有ではないだろうか。したがって働く最も基本的な理由は安定した収入を得て、最低限の生活水準を維持することであろう。その他の要素はプラスαであり、従業員の個々人に固有で、すべての従業員のニーズを満たすことは不可能である。

 

  • 組織が与えるインセンティブ

 ではこのような欲求を持った従業員に対して、どういったインセンティブを与え、喜んで働いてもらうことができるのだろうか。この設計においては主に2つのことに注意すべきである。1つ目は何を分配の中心にするかである。お金なのか地位なのか仕事の裁量なのか仕事の内容や面白さなのか。2つ目はその分配決定の尺度である。以下では前節で最も基本的な欲求だと述べたお金について考えてみたい。

 まずハーズバーグの衛生要因と動機づけ要因が有名である。前者は最低限の欲求を保障するものであり、後者が従業員のやる気を引き出すものである。収入が衛生要因となるのは、会社が給料として生活に最低限必要な分を保障する場合である。動機づけ要因としては成果主義や業績に連動した報酬のように、お金によって頑張りを引き出すものである。営業部の契約件数に連動した給料や工場のラインでの生産個数に応じた賃金の支払いがこれにあたる。またそれ以外にもお金というのは職場社会での他者承認の尺度、自分の頑張りに対する会社からのフィードバックであり、その意味で承認欲求を満たすことができる。

 高橋伸夫『<育てる経営>の戦略』に即して述べると、日本企業の雇用の特徴として「日本型年功制」があり、その説明として高橋は日本企業の給料は「年齢別生活費保障給」の側面が強いと述べる。すなわち日本企業における給料は最低限の生活費を支給するという意味で、衛生要因として働く。そして従業員のやる気を引き出す方法としては、成果を出せば次の仕事の内容や面白さで報いる、上司がみんなの前で褒める、といった、給料以外でのご褒美を多く用いている。高橋は成果主義を批判しているが、私もそれに賛同する。自分が頑張ったご褒美としてたくさんのお金を与えられるだけで、誰からも感謝されたり褒められたりしない、というのはいささか人間味にかける評価方法ではないだろうか。

 

  • インセンティブの源泉としての企業成長

 最後にインセンティブの総量を増やし、またその源泉を多様化するために、企業にとって成長が必要であるという考え方が新鮮だった。組織が大きくなれば利益も増え、さらに役職が増え、また今までよりも面白い仕事をする機会も増える。成長によって企業は標準以上の利潤(すなわちレント)を得ることができるので、従業員の賃金を保障し生活の安定に貢献することもできる。

 しかし標準以上の利益を得る会社があるということは、当然だが他方では標準以下の利潤しかあげられていない会社があるということで、そのように他者を常に意識して競争を繰り返すことは苦しいことのように思われる。

組織マネジメントの全体像 ~『ゼミナール経営学入門』より~

『ゼミナール経営学入門』の第9章をまとめた。

 

  • 組織と個人、経営の働きかけ

 まずこの章の冒頭では「経営とは、人々の協働を促し、率い、そして協働全体の舵取りをすることなのである」と述べられている。1章でも触れられていたが、企業の究極的目標である利益を得るためには、顧客に魅力を感じてもらい(reasonable)、さらに財サービスの提供に費やしたコスト以上の価格を支払ってもらう(profitable)、ことが必要である。そしてその ”reasonable” かつ ”profitable” な状態を作り出すために、従業員が協力して働くこと、すなわち協働が必要となる。ここで「顧客に魅力を感じてもらう」という意味で “reasonable” という単語を選択したが、それは「妥当な、適度な、合理的な、良心的な、正当の、手ごろな」といった意味で、顧客が納得してその合理的な財サービスを選択し、その正当/妥当な対価として手ごろな価格を支払うという、購買に関する一連の流れにフィットする単語だと考える。

 以上より経営において外部環境との関わり方を意味する戦略とともに、自社の内部、すなわち組織を適切にマネジメントすることが、非常に重要な意味を持つことは理解いただけただろう。

 

  • 従業員の行動と経営の働きかけ

 この本でも述べられているが、組織のマネジメントは「組織の業績を良好な水準に保つため」に必要である。「業績」というのは、利益、成長、雇用の維持、社会貢献など様々なものを指すが、とにかく業績というものが組織マネジメントのゴールである。しかし企業が人の集合体である以上、マネジメントできる範囲には限界がある。個々の従業員は、日々考えていることや仕事に求めていることなど、とても個性的である。それをある方向に強制的に向けて、頑張らせるというマネジメント方法は、いささか無理がある。個人の意思決定の範囲は組織の役割に制約されるが、その範囲内では自由に情報交換を行い、行動を選択できるという意味でかなりの自由度があるといえる。したがって冒頭でも書いたが、経営やマネジメントがすべきことは、従業員をときには引っ張り、ときには支えることで、協力して働いてもらうことである。

 

 以下の図のように、経営の働きかけをこの本では、戦略、経営システム、理念/人の3つから成るとしている。この3つの方法も様々な具体的な方法から成るが、3つの方法でしか経営は個人に働きかけることができないということも意味している。もちろんトップから影響を与えるだけでなく、現場の従業員同士が相互に影響を与え合って、うまく協働を成り立たせることもある。またOutputの行動計画の欄に「方向」と「大きさ」というのはベクトルに例えたもので、要するに「どこに向かってどれだけ頑張るか」ということを示す。しかし頭で考えた計画と実際の行動(業務行動や学習)には大きな隔たりがある。しかし実際の行動を起こさなければ業績も出ないので、その飛躍をマネジメントすることも必要だろう。

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 このように図化して、組織の業績が生まれるプロセスを分解していくと、自社がどの部分に問題を抱えているかということが整理されるのではないだろうか。経営のフレームワークだけで企業の業績を改善することはできないが、その手助けにはなるのかもしれない。