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OWLの思考

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HR Tech ―概要と国内サービス比較―

はじめに

最近、メディア等(例えば人工知能で職場が変わる?)で、人工知能などのIT関連技術を活用して、人事を変えていくという試みが取り上げられている。

人事分野の研究者を目指す者としては、非常に興味のあるトピックであり、概要と国内サービスについて調べ、若干のコメントを付与した。

 

概要

  • クラウドビッグデータ解析、人工知能(AI)など最先端のIT関連技術を使って、採用・育成・評価・配置などの人事関連業務を行う手法のこと」で、IT関連技術としては、ビッグデータ解析、AI (deep leaning)、IoT(ウェアラブルバイス)、VR/AR/MRなどがある。ウェアラブルバイスは従業員の行動データの収集に用いられる。例えば、「JINS MEME」というメガネ型デバイスは、センサーと通信機能を備え、「目の動き」「まばたき」「姿勢」などのライフログ(生活・行動・体験のデータ)をもとに、集中を測定し可視化する。またVR等は教育・訓練への活用が期待される。

(https://jinjibu.jp/keyword/detl/806/)

(https://jinjibu.jp/hrt/article/detl/techtrend/1549/)

  • 「HRテックが目指すのは、ITを使った高度な人材戦略の実現だ。人事担当者の経験やノウハウに頼るのではなく、データに基づいて人材を生かす」

(http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/082400179/082500005/?rt=nocnt)

 

 

国内のHR Tech関連サービス

  • Wantedly:social recruiting

(https://www.wantedly.com/)

「WantedlyのOpen API提供開始も、「なぜその仕事をやるのか」、「どんな価値観を持った人達と働くのか」といった価値観によるマッチングという中高層寄りのコンセプトをHR Techを通じて普及させていくだろう」(下線筆者)// Maslow 5段階欲求 中高層=所属欲求・承認欲求

(http://jp.techcrunch.com/2015/12/29/hr-technology-conference-report/)

 

  • <コメント> 組織の価値観(=組織文化)と個人の価値観がフィットしているほど、組織コミットメントや職務満足が高く、退出願望(=会社を辞めようと思う気持ち)が低くなることが実証されている (O’Reilly et al., 1991)。組織と個人の価値観をフィットさせる方法は大きく分けて2つあり、1つ目は価値観が似通った人を雇うこと、2つ目は組織内社会化と呼ばれる、会社のカラーを浸透させるプロセス(例:経営理念を共有する合宿、毎朝社訓を唱和する儀式)を行うことである。現在HR Techに期待されているのは、1つ目の採用におけるマッチングであろう。
  • <コメント> 先の論文ではOCP (organization culture profile) という組織文化の測定尺度が提示され、研究では広く用いられているが、評価項目が固定的である。機械学習などを活用することでダイナミックに改良を重ね、予測精度を向上させていくことが可能かもしれない。

 

  • ネオキャリア「jinjer」

(https://hcm-jinjer.com/)

・採用管理…データを一括管理

・勤怠管理…「AIによるエンゲージメントアラート機能」:「従業員の勤怠管理データから個別の傾向値を導き出し、エンゲージメントをAIが分析。モチベーションが下降傾向にある従業員をいち早く察知、人事担当者へアラートを出します。この「エンゲージメントアラート機能」により、退職などを未然に防ぐ対策を打つことで離職率の低下へと繋げ、人事戦略・組織力強化を実現させます」

労務管理…手続きの簡略化・電子化

・人事管理…株式会社FiNC ストレスチェック(110~350の質問項目)← 労働安全衛生法の一部改正で、ストレスチェックと面接指導の実施等が義務化

(https://hcm-jinjer.com/)

 

  • 要するに、データの一括管理と、「エンゲージメントdown ⇒ 離職願望 (intention to quit) up」という仮説に基づき、エンゲージメントのコントロールを通した離職率の低下を目指すことがポイント。
  • <コメント> しかし「従業員の勤怠管理データから個別の傾向値を導き出し、エンゲージメントをAIが分析」について、そんなに簡単にエンゲージメントを数値化できるのか。そもそも「エンゲージメント」という指標をわざわざ用いなくても、離職の有無を従属変数とした回帰分析によって、離職の原因となる変数(例:欠勤日数)とその基準値(例:月に5日)を特定できれば、アラートは可能では。

 

  • ビズリーチ「戦略人事クラウドHRMOS(ハーモス)」

(https://www.hrmos.co/)

・戦略人事とは「経営者のパートナーとして、企業戦略との整合性を取りながら人と組織の両側面から企業の成長をドライブする新しい形の人事。人材活用のリーディングカンパニーは、人事業務の中で生み出される膨大なデータを活用することで属人性を排除。より良い採用や組織運営のあり方を追求することで、事業成長を実現するチームを創りあげている」

・「自社で活躍している社員の傾向を、DBが保有するデータを基に割り出す」

・「人事業務のあらゆる情報を一元管理」し「ビッグデータとして蓄積・分析・活用する」

(下線筆者)

 

  • 要するに、社内の人事データを一元管理し、(ビッグ)データにもとづく人材マネジメント (human resource management;HRM) を行う。

 

  • オラクル「Oracle HCM Cloud」

(http://www.oracle.com/jp/applications/human-capital-management/overview/index.html)

・「活躍しそうな社員や離職しそうな社員を見つけられる」

・「過去のデータを基に未来の退職率やパフォーマンスを予測する機能」

・「採用面接など入社前の情報と、入社後の職務履歴や評価などの情報をまとめて見られるようにしている企業は限られている」

 

  • 要するに、人事データを一元管理し、個々の従業員のパフォーマンス(活躍・生産性)や離職を過去のデータから予測する。特にエンゲージメントという指標に着目。

 

  • workday「Human Capital Management Suite」+ Accentureによる導入支援

(https://www.workday.com/ja-jp/applications/human-capital-management.html?wdid=jajp_ws_hm_wdhmprodarea_hcm_wd_web_17.0087)

 

  • IBM「Kenexa」

(http://www-01.ibm.com/software/jp/info/kenexa/)

・「IBM Kenexa Employee Voice」…従来も「エンゲージメント(あるいはモラル)・サーベイ」が行われていたが、調査・分析・対策立案のサイクルが1~3年と遅い。そこで「より社員にも負担の軽いコンパクトな調査」にすることで、「頻度」を上げて変化にスピーディーに対応する。

(http://www.hrpro.co.jp/download_detail.php?ccd=00612&pno=4)

・「IBM Kenexa Survey Enterprise」…「IBMでは200名以上の産業心理学の学者が個々のお客様の組織構造や目標、企業文化に合わせて調査票を設計するとともに、グローバルで蓄積してきた膨大なベンチマークをもとに結果を分析し、取り組むべき行動計画の提案を行います」(下線筆者)「2009年から2013年までに1億4,000万人の意識調査を実施し、その結果をすべてベンチマークとして取り込んでいます」

 

  • <コメント> 導入事例のJ社(製造業)では、従業員エンゲージメント指数が4年間で56%から72%へ向上したことが紹介されている。しかしエンゲージメント向上による組織成果(例:生産性、離職率)への具体的な効果は示されておらず、時系列分析等、さらに追跡して因果関係を明らかにする必要がある。
  • <コメント> 研究者にとっては企業内データの宝庫。今後、産学連携が進めば、従来手に入りにくかったデータを用いて、組織内の人間行動に関するさらなる研究の進展が期待される。

 

・「IBM Kenexa Talent Insights」…業績の高い従業員の資質や行動特性を分析し、採用時の選考基準に活用、「社員の資質やスキルと求められる要件とのマッチング」、「離職につながる要因の分析」など、「人財を分析し指標化する」ことを行う。「人間が話す自然言語での入力を理解し、対象となるデータを分析して仮説を生成し、根拠に基づいた回答を提示」

 

  • 要するに、ビッグデータ解析によって、選考・評価の基準や判断の材料が与えられる。評価者によって左右されていた評価を、データに基づいたより客観的なものにする。
  • <コメント> あくまで参考程度であると理解した上で使う必要がある。分析結果に頼りすぎると、評価者が思考停止に陥り、評価のノウハウを蓄積しようという学習意欲を失う。これが問題になるのは、環境変化が激しい場合に過去のデータに基づく未来予測の精度が下がってしまうからである。

 

まとめ

  • 今のところ国内のHR Tech関連サービスの目的は、データに基づく人材マネジメント。
  • 人事データを一元管理し、離職・生産性をビッグデータ解析によって予測 and 相関する特性(資質、行動等)を明らかにする。
  • 特に「エンゲージメント」という指標に注目している企業が多い。
  • 採用における個人と企業のマッチングに使えそう。