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OWLの思考

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経営戦略とは何か ~『ゼミナール経営学入門』より~

 前回までは「イノベーション」というテーマで主に書いてきたが、ここに来てその概念が属する「経営学」というものの基礎を固めないと砂上の楼閣になると思った。そこで今回からは経営学の基礎的なテキストをレビューしながら、現在、経営学の分野で行われている議論や考え方について整理したいと思う。

 今回は『ゼミナール経営学入門』という大学の入門講義でもよく用いられるテキストを参照した。テーマは「戦略とは何か」である。経営学と言えば戦略論と言っても過言ではないほどしばしば耳にする単語だが、その定義をきちんと理解して使用している人はどれだけいるのだろうか。

 

  • 企業の「マネジメント management 」とは

 経営学は ”MBA(a master’s degree in business administration, 経営学修士)” という言葉からも分かるように、 ”business administration” と訳される。また関連して ”management” という単語もある。”administration” という単語は、「管理」、「統治」、そのままの「経営」という意味を持つ。そして “management” もだいたい同じような意味である。両者のニュアンスの違いを調べたところ、 ”administration” は組織にとっての目標 objective や方針 policy を設定するようなトップ経営層の活動であり、 “management” はその目標を実現するための具体的な活動をするといったミドル管理層の活動である、という分類がされていた。(参考サイト:http://www.differencebetween.net/business/difference-between-management-and-administration/)

 いずれにしても経営学というのは、企業の目標設定と、その実現のための具体的な活動を対象にする学問なのだと理解することができる。日本語の「経営」という言葉は企業のトップ層のみに使われ、ミドル層には「管理」という言葉が使われるが、経営学はどちらも対象としているところが興味深い。

 以上で分かったことをごく簡単にまとめると経営学は企業活動のすべてを対象とするということだ。企業についての学問と言っても過言ではないかもしれない。

 

 では「企業活動」とはいったいいかなるものなのだろうか。経営層がビジョンやゴールを示し、企画がそれを実現するためのサービスや製品を考え、技術者がその要件を満たす製品を作り、工場がベルトコンベアで大量生産し、マーケティングや宣伝がその価値を顧客に伝える方法を考え、などなど、非常に多岐にわたるプロセスである。このままでは経営学について全体を俯瞰しにくい。

 そこで今回参照した『ゼミナール経営学入門』の分類を取り入れてみたい。この本では企業活動を主に「環境のマネジメント」と「組織のマネジメント」に分類している。前者は企業とその企業を取り巻く環境、すなわち企業外部との関わり方を考え、後者は企業内部を対象とし、個々人の力をうまく統合して1+1を2ではなく、3や4にしていく方法を考える。以下に図を示した。

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 図のように企業の周囲には、資本市場、労働市場、製品市場、原材料市場がある。そして特に製品市場にいる顧客と競争相手との関わり方を考えるのが「(経営)戦略」である。戦略については次の節で詳しく述べるが、製品市場に特に注目するのは、他の市場と違って、この市場は需要をもたらすからである。もし他の市場から資金や人材や原料を揃えたとしても、「製品市場での展開に失敗してしまえば企業の命運は絶たれる」というほどに企業にとって重要な役割を果たすのが製品市場なのだ。

 

  • 戦略とは何か

 前節で「戦略=企業の製品市場との関わり方の方針」ということが分かった。この本ではさらに戦略の定義について深掘りし、「市場の中の組織としての活動の長期的な基本設計図」と定義している。面白いのが顧客を「恋人」に例えているところで、企業が競争をしているのは顧客という「恋人」を「ライバル」である競合から勝ち取るためだという例えがおもしろい。そして企業が目標とする利益を得るための条件は、

 (1)製品サービスを顧客が選択する

 (2)企業の支払うコスト < 顧客の支払う価格

である。愛を勝ち取るためには恋人に自分の魅力を伝え、自分を選択してもらわなければならない。しかし市場においては好ましさの判断基準が価格であるので、顧客にお買い得と感じてもらいながら、利益も確保できるようにコストを低く抑えなければならない。顧客にとっては ”reasonable” で、企業のとっては “profitable” というウィンウィンの状態を実現することで、利益を上げられるという考え方だ。つまり利益は顧客にとってのその製品サービスの「魅力」の結果であるといえる。

 この魅力を提供するために企業は組織化し協働している。協働を成功させるためにも条件があり、

 (1)共通の方向付け

 (2)活動の資源

が必要となる。(1)は人々が共通に理解する方針としての戦略を立てることである。そして(2)は特に重要で、経営者がいくら壮大なビジョンを掲げて完璧な戦略を立案しても、それを実現する材料がなければ、絵に描いた餅に終わってしまう。この意味で(経営)資源は企業活動の「基盤」である。

 

  • 戦略の立て方の違い

 前節で述べたことをまとめると、企業が利益を得るためには顧客に魅力を感じてもらう必要があり、そのための組織活動には戦略と経営資源が必要、ということだ。ではこの戦略、特に優れた戦略は何に基づいて考えればよいのだろうか。ゼロから物事を作り上げるのは非常に難しい。そのため参照点となるものが必要となる。以下では戦略論の二大潮流である企業外部(「ポジショニング・スクール」)と企業内部(「経営資源スクール」)という2つの視点を紹介する。

 まず1つ目は企業外部との関わり方や距離感をベースに戦略を考える「ポジショニング・スクール」について。この戦略は、市場動向を理解し、その環境のなかに自社を適切に位置づけることを考えるので「市場対応計画」ともいえる。人間に例えると他人との関係性やその中で求められる役割から、他人との距離感や自分の振る舞いを考えるようなものだろうか。

 2つ目は企業内部の経営資源に基づいて戦略を立てる「経営資源スクール」である。RBV(Resource Based View)や「コア・コンピタンス(Core Competence)」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれない。この場合の戦略は「資源・能力の利用・蓄積計画」といえる。上と同様に人間に例えると、自己分析をして自分の強みや特徴を知り、それに基づいて、誰とどのように関わっていくかを考えるといったものだろうか。最初の方でも述べたが、戦略とはそもそもが「企業と製品市場との関わり方の方針」であるので、自己分析をする目的は、他者、特に顧客と競争相手とのより良い関わり方を考えることである。自分の特徴を知って満足していてはいけない。

 この議論は派閥の違いのようなもので、どちらの視点も実際の経営には不可欠だ。ただどちらを優先するかという問題だ。例えば、非常に優れた技術を持っている企業はその経営資源から戦略を考えるのが自然であろう。また柔軟な組織運営を得意とするのであれば、相手の出方をうかがい、それに合わせて戦略を変更していくのがよいだろう。

 

  • 「見えざる資産」

 この節では先に触れた経営資源についてもう少し深掘りする。ヒト、モノ、カネについては資源として有名だが、それ以外の「見えざる資産」や「情報的経営資源」と呼ばれる資源について考察する。具体的には、ノウハウ、技術、信用、ブランドイメージ、顧客情報、組織文化、などである。定量的に評価することが難しく、また具体的な形がないことが共通の特徴である。これが注目される理由は大きく分けて以下の3つだ。

 (1) カネで手に入れられず、蓄積に時間がかかる = 競合優位の源泉になる

 (2) 同時多重利用可能 = 利用制約が少ない

 (3) 事業活動のinputかつoutput = 拡大再生産が可能(ほぼ無尽蔵)

 1つ目は理解されやすいだろう。2つ目の例は技術で、例えば液晶技術はパソコン事業にもテレビ事業にもビデオカメラ事業にも同時にまた繰り返し使用することができる。3つ目の拡大再生産というのは、input < outputということで、例えばブランドイメージは口コミなどを通じてますます拡大していく。もちろんマイナスイメージも伝播しやすいので注意が必要だが…

 

  • 「見えざる資産」の獲得

 ともかく、「見えざる資産」が魅力的であることは了解いただけただろう。しかしこの資源が優位性になるのは、(1)のように蓄積が難しいからである。意識的に時間をかけて工夫しなければ蓄積されない。この問題点に対して、この本は日常業務に副次的な蓄積が必要だと説く。これに反対する言葉は直接的蓄積で、それはブランドづくりのための広告宣伝、新技術開発プロジェクト、サービス向上のための研修、など資源形成のために特別な資源投入を伴うものだ。しかしこの投資効果は一時的であるし、蓄積のきっかけとしてはありだが、持続的に情報的経営資源を蓄積することを目的とするとコストもバカにならない。それに対して副次的蓄積では日常業務を資源蓄積、すなわち従業員にとっての学習の機会と捉える。この資源を蓄積することで競争優位を実現するという立場(=経営資源スクール)に立てば、日常業務を密度が濃く、経験の質が高いものにするための工夫(=戦略)が必要となる。

 

  • まとめ

 以上、『ゼミナール経営学入門』を参照して、戦略とは何か、戦略論の二大潮流、そして情報的経営資源の重要性を紹介した。このような理論が現実の経営にどれほど役立てられているか大いに疑問だが、基礎の理論を知ることは現実の企業を理解する上で大きな力となるだろう。