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OWLの思考

坂 / 雲 / 経営学 / 社会学 / 労働観 / work-nonwork balance / HR Tech

イノベーションに伴う困難とその解決策

今回はイノベーションに伴う困難と解決策を整理する。

イノベーション」という言葉をよく耳にするが、それが少ししか実現されていない理由を明らかにし、その現状を変えることを目的とする。

 

まずこの文章のまとめとして以下の図を示す。適宜参照されたい。

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イノベーションを起きやすくする要因については様々な説があるが、実際にイノベーションが頻繁に起きていない原因は、それに伴う様々な困難にある。シュムペーターは著書において以下の3つを困難として挙げる。

  1. 「決断のための与件や行動のための規則がなくなってしまう」
  2. 「経済主体は新しいことに反対し、たとえ実際上の困難が存在しない場合にもなお、これに反対する」
  3. 「一般にあるいは経済面で新しいことをおこなおうとする人々に対して向けられる社会環境の抵抗」

まず1つ目について、新結合の遂行は、従来の慣行的な反復とは全く異なる不連続なものであり、過去の成功事例などを参考にして現在や未来の戦略を立てることができない。この場合、事象が起きる確率だけでなく、その事象の内容すらも分からないというKnight流の不確実性に直面することとなる。失敗する確率が高くなるのは自明である。「これをすればイノベーションが必ず起きる」といった成功のメソッドはなく、幸運など数多くの制御が非常に難しいファクターが関係している。

2つ目と3つ目に共通することは、人間とその集合である経済はリスク回避的で不確実性を好まないため、現状を維持することにこだわる、ということだ。たとえその現状が間違ったものであっても、自然淘汰の過程を経て現在まで長らく残っていれば、それを正当化する何かしらの理由を見出すのである。

そして2と3の困難を分類するとすれば、変革を起こそうとする「個人(自己)」に起因する困難と、その変革に対する「社会(他者)」に起因する困難に分けられるだろう。つまり個人の場合は、固定的な思考習慣のせいで、今までの自分の考え方や思考の枠組み(フレーム)を変化させ、物事を今までとは違う視点で見ることが難しい。そして集団と違う行動をとることに対して社会からも反発があるため、受け入れてもらうためには多くの人を説得する力が必要となる。

 

  • 「指導者活動」の必要性

そしてこれらの困難を克服するために特殊な類型である「指導者活動」が必要となるとシュムペーターは続ける。その特徴をまとめると以下の3つに集約される。

  1. 不確実性や周囲の反対をものともしない(「ひとりで衆に先んじて進み、不確実なことや抵抗のあることを反対理由と感じない能力」)
  2. 特殊な視点を持つ(「確固たる事物をつかみ、その真相を見る意志と力」)
  3. 卓越したリーダーシップを持つ(「他人への影響力」「人を服従させる力」)

それぞれ上で述べた困難に対応している。1つ目は先見の明(「事態を見通す力」)を持ち、数多くの不確実性や反対に屈することなくイノベーション遂行に邁進するということを意味する。2つ目は革新的なものの見方によって問題やその解決策のリフレーミング(reframing)を行い、「経路依存」や「現状維持バイアス」を乗り越えてイノベーション発生させるということを意味する。3つ目は変化を恐れるほとんどの人を説得し、困難を乗り越えてイノベーション普及させる力を持っているということを意味する。

 

  • 疑問

このような能力をすべて兼ね備えているのは確かに特殊な人であるし、指導者になれる人は少数であることは経験的に理解できる。しかしイノベーションを発生させ、遂行し、普及させるというイノベーションの段階において、これらを1人が全て同時に持っている必要があるのだろうか

また本当に今までのイノベーションは1人の「スーパースター」によってなし遂げられたのだろうか。Steve Jobsは1人でiPhoneiPodなどの革新的な製品を生み出したのだろうか。電球を発明し、発電から送電までを含む電力システムの事業化に成功したとして知られるのはThomas Edisonだが、それは彼だけが特殊な能力を持つがゆえになし遂げたことで、他の「凡人」にはとうてい不可能なことだったのだろうか。

 

 

 

  • イノベーターはスーパースターでなくてもいい

こういったイノベーションが特別な類型である指導者、すなわち「個人」によってなし遂げられるという、「たった1人の発案者」という神話に対して私は疑問を感じる。まず4節でシュムペーターの議論を用いて示した指導者の特徴について、それを1人の個人、すなわちイノベーターがすべて兼ね備える必要があるのかについて考えてみたい。そこで1~3の能力を個人のスキルとチーム全体のスキルに分解して述べる。

 

  • 1つ目 ―集団で不確実性を乗り越える

まず1について、不確実性に対抗できるようなチャレンジ精神や強い意志を持った人は確かに存在する。単に向こう見ずなのかもしれないし、先見の明をもって不確実性を越えた先にあるものの価値を確信しているので、不確実性など存在しないと思っているのかもしれない。しかし経済学が想定するように、そのような人は少数派ではないだろうか。

では組織の仕組みを変えることで不確実性に対処してはどうだろうか。例えばある程度の失敗を許容するような評価システムを作り、新規事業を立ち上げて失敗しても昇進に悪影響を与えないことを保証すれば、その組織のメンバーは以前よりもリスクを取って挑戦するだろう。また先の例はイノベーションの創出に取り組むためのマインドに対する対処だが、実際にアイデアが固まってきた際にプロトタイプを作り試してみるなどの「デザイン思考」を用いたリスクの低減方法がある。個人の能力に頼るだけではなく、システムをうまく設計することによってもクリアできる問題である。

 

  • 2つ目 ―みんなどこか変わっている

2について、物事を特殊な視点から見るスキルを持つ人は存在するだろう。「ユニークだ」と言われる人はそのようなスキルを持っている。これに関しては様々な要因があるが、トレーニングややその人の興味の赴くままに自由にさせることなど教育によって素質を伸ばすことができるのかもしれない。また孟母三遷の教えにもあるが、周囲の環境をうまく調整することもそのようなスキルを育むためには必要かもしれない。

では次に組織が特殊な視点を持っているというのはどういうことだろうか。つまり企業であれば新製品開発のプロジェクトチームにおいて、解決しようとしている問題またはその従来の解決策の捉え方を変えることで、今までとは違う革新的な製品を生み出すことができるような組織である。それには意見の多様性と自由闊達な意見交換を可能にする(Affordする)雰囲気を作り出すことが必要となる。前者はチームメンバーの選定外部の人間との交流の機会を設けることが鍵となり、後者はチームリーダのファシリテーション能力に関わっている。つまり1×1を1以上にすることができる組織である。したがってイノベーターが「ユニークである」ことは必ずしも必要ではなく、チームのメンバーにそれぞれの強みやユニークさを発揮してもらい、その化学反応を促進することによってもイノベーションは起きるのではないだろうか

 

  • 3つ目 ―「リーダーシップ」とは?

3について、ビジョンを示し多くの人を惹きつけるリーダーも歴史には散見されるが、よほどのカリスマ性が必要で天賦の才ではないかと思う。これは対多数のリーダーシップであるが、対少数のリーダーシップ、すなわち数人~数十人のチームを率いることは前者ほどの困難はないように思われる。またリーダーというと外向的な人をイメージするが、少人数のチームでればリーダーが外向的であることもイノベーターの創出や遂行にはそれほど必要ない。イノベーションを普及させる際には、営業部隊などそれの得意な人に任せることでも代用が可能だ。余談だがスーパーリーダーシップという考えがあり、それはチームの個々人が特にリーダーが存在しない状況でも主体的に行動することを指す。このように「卓越したリーダーシップ」もイノベーターが絶対に持っていなければならないスキルではない。